「思想の英雄たち 保守の源流をたずねて」

思想の英雄たち―保守の源流をたずねて (角川春樹事務所 ハルキ文庫)

思想の英雄たち―保守の源流をたずねて (角川春樹事務所 ハルキ文庫)

15人の西洋の思想家を列伝風に並べた本。大衆と歴史に重点が置かれていた印象を受けた。個人的に面白かった箇所のみメモ。


・バーク
歴史=伝統=国民性=法の体系を保守しようという点でバークは保守主義であった。それ故自らの国民性を破壊しようとする人主義的考えには否定的であった。バークの保守思想とは、人間とその社会の複雑さや微細さをよく自覚しており、その意味で漸進主義であった。

トクヴィル
「地位の平等」は、一方で市民に権利の完全分与としての人権を、他方で権力の完全剥奪としての専制権力をもたらす。アメリカン・デモクラシーが望みあるためには、宗教心や家庭といった風習が健全に機能することが必要であり、それ以外では人民主権は堕落する。
人民主権説は、多数者による道徳的支配が認められいることに正当性を得ているが、そうした世論が権力をもつことで、多数者による専制が発現し、衆愚政治の引き金になりかねない。戦後日本は民衆が歴史を担わざる民主主義を取りいれた。この事態には「歴史破壊の純粋実験場」と言わざるをえない。
戦後民主主義の難点は、「法律と風習」が安定せず、代わりに人間の際限なき欲望が解放されているところにある。「多数派のよる専制」と「独裁政治」が連帯したり競合したりするのが20世紀のデモクラシーだった。

・シュペングラー

個別の有機体には「歓声と終結」があり、そうならば個々の文化にも「絶頂と没落」があるはずだという想念に、シュペングラーはあのれの思想を賭けたわけだ。(P144)

「西洋の没落」とは、東洋の勃興を意味するのではなく世界の文化は季節のように盛隆しやがて没落する、という意味を含んでいる。

オルテガ
国家を支配・統治する能力をもたず、その努力もしない大衆は、国家の支配者に反逆して国家を支配しようとしている。国家は大衆によって簒奪され、大衆の生は国有化されている事態が生じている。

ヴィトゲンシュタイン
哲学を含むあらゆる知的営みは、全て言語ゲームである。学問的固定観念を張り巡らせた哲学は、因習にとらわれることになる。哲学のような知的営みにおける専門用語も、日常言語に通底せねばならない。そこでヴィトゲンシュタインは知的言語を多様性の中に投げこむことで、哲学者たちを精神的に治癒しようとした。

トクヴィルが一番面白かった。