リオオリンピック柔道所感

今更感が漂っているが少し書き溜めていたので。今回の大会では寝技が多く見られ、また同時にブラジル人選手を中心に跳び関節や巴十字や巴投げや隅返しによる引き込みも目立った。柔道に普段関心がなくオリンピックでしか観戦しない層にとっては技の豪快さ・派手さがなく退屈に感じたそうだが、柔道家ブラジリアン柔術家の端くれである俺にとっては面白い試合が多かった。

五輪前に73kg級の大野将平と81kg級の永瀬貴規は金メダル確実、60kg級の高藤直寿選手が金メダル有力と予想していた。結果は大野とベイカーと田知本が金。田知本の試合はハラハラした試合が多く、全部面白かった。60kg級の高藤は普通にやれば勝てたはずだが、日本人がよくやられる外国人の隅返しにうまくかかってしまった。66kg級の海老沼は予想通り。相手が強かった。81kg級の永瀬は珍しい形の袖釣り込み腰(?)でポイントをとられてしまい、運悪く負けたという感じ。同い年・同じ地域ということで小学生の頃から知っている100kg級の羽賀は相手の相性が悪かった。100kg超級の原沢はリネールに柔道をさせてもらえず銀メダル。俺の柔道友達は、原沢も組手を切っていて且つリネールより技が出なかったので負けてもしょうがなかったとのこと。

73kg級の大野将平はもともと俺の最も好きな選手の一人だったので、彼の強さが日本全体に認知されて嬉しく思った。準々決勝のグルジアの選手は強かったが、それ以外では大野の実力が抜きんでていた。

メダル数12個という好成績をたたき出すことができたのは、井上監督の努力もあると思うが、一番はロンドンの時と比べてかなり強力な布陣であったことが大きい。特に81kg、90kg、100超kgという外国人選手層の厚い階級で永瀬、ベイカー、原沢という選手が出てきたのが大きかった。また井上監督の、サンボなど他格闘技からもテクニックを吸収する姿勢は非常に好感がもてた。選手の動きを見ているとブラジリアン柔術のテクニックを勉強したことがも推察される(松本薫オモプラッタのような動きなど)。「強くなるために多方面から学んで実戦していく」という風潮が今後の日本柔道界全体に広がることを願う。

外国人選手について。
ブラジルの女子57kg級のハファエラ・シルバ(Rafaela Silva)は今大会初のブラジル金メダリストとなったことや貧民街出身ということもあり注目を浴びた。俺の好きな柔道家でトップレベルの寝技師でありカントチョークでも有名なフラビオ・カント(Flavio Canto)の施設の出身でもある。ブラジル選手は全体的に寝技の動きが巧く、ブラジリアン柔術の影響がよく見られた。

60kg級金メダルはロシアのムドラノフ(Mudranov)。細身ではあるがバランス感覚に優れた選手だった。カザフスタンのスメトフ(Smetov)、韓国のキムも日本の高藤と並ぶ強豪であり、メダリストは大方予想通り。66kg級金メダルはイタリアのファビオ・バジーレ(Fabio Basile)。この優勝は意外であったが、国士館柔道部の知り合いによると国士館に出稽古に来るなど熱心な柔道家らしい。81kg級金メダルはロシアのハルムルザエフ(Khalmurzaev)。元々知らない選手だったためyoutubeで試合を幾つか見たが、日本の永瀬のように捉えどころのない柔道をするタイプである。今大会60kg金のムドラノフ、ロンドン72kg級金のイサエフ(Isaev)、ロンドン100kg級金のハイブラエフ(Khaybulaev)などロシアの強豪はコーカサス出身のイメージ。同階級で銀メダリストのアメリカのトラヴィス・スティーブンス(travis stevens)は柔術家でもあり、ヘンゾ・グレイシーの道場出身である。とある柔術サイトによると柔道よりも柔術の練習時間の方が長いらしい。この選手は何よりもロンドンの時にドイツの選手とのガンの飛ばしあい→土下座の印象が大きい。100kg級は羽賀が負けた瞬間に寝たのでよくわからない。

全体を振り返ると、今回は実力では日本が頭一つ抜けていて、強豪韓国があまり奮わず、ヨーロッパ勢はいつも通り、ロシア・グルジアアゼルバイジャンなどのコーカサス地域やカザフ・ウズベクなどの中央アジア地域などの活躍が目立った。

せっかくのオリンピックということで、柔道やブラジリアン柔術と同類の組み技系格闘技であるレスリング(フリースタイル)も少し見てみた。素人目から見て、立ち技は下からのタックル、上からのがぶり、あとは裏投げや体落とし系の投げ技が多い印象を受け、また前傾姿勢の構えやバックの取り方・片足の取り方など寝際の攻防がブラジリアン柔術と似ているように感じた。

東京オリンピックの柔道日本代表では、60kg級の古賀玄暉、66kg級の阿部一二三、81kg級の藤原崇太郎、100kg級の飯田健太郎あたりの若い世代の活躍が期待される。あとは大野、ベイカー、永瀬などの中堅・ベテランがどこまで頑張れるかである。