「経済思想の巨人たち」とその読書メモ

経済思想の巨人たち (新潮文庫)

経済思想の巨人たち (新潮文庫)

4月23日読了。2016年15冊目。
経済思想という名を冠する本を読むと大抵は欧米系の学者や思想家だけで終始するが、本書は珍しく日本人も紹介されている。といっても学問としてイケイケの経済思想ではなく、経済観、市場観、商売倫理といった感覚的なものに近い。だからこそ面白いのだが。

高校の日本史教科書でもお目にかかる馴染み深い(?)日本人の思想家6人は必読と位置付けて、その他はマルサスシュンペーター、ブキャナン、アロー、ハイエクフリードマンマルクスケインズ、ベッカーなど興味のある人物をつまんで読んだ。

ちなみに著者が自由主義に肩入れしている感じは少しあった。

石田梅岩(江戸前期):商業を肯定的に捉えていたが、それは無限の利益を追求する「資本主義の精神」と異なり、適正な利だけを求める「商の精神」を目指した。現代の日本に受け入れられる倫理観の原型を作ったともいえる。

安藤昌益(江戸中期):万人が自分の農地を持ち自分で耕す「農本共産主義(=自給自足経済)」への志向。学者、坊主など生産をしない者を蔑視。万人が自給することで、税金も慈悲も生まれず、分業も交換もない世界が実現するというユニークな思想。私有制を否定しているわけではにのでマルクスとは少し異なる。

海保青陵(江戸後期):武士はモノを買って消費するばかりでモノを売らない、つまり商売をしない。武士は番をすること以外やることがないため、商売人として市場経済の中でサラリーマン化することで、自国の生産を増やし富むようにすべきである。

福沢諭吉(明治):個人と自由と独立を説き、それはやがて「公」に対置された利を追求する「私」の在り方に発展、それは慶應義塾という私学設立にも表れている。「競争」という訳語は福沢諭吉によってなされたもので、市場経済で勝ち抜くために競争が重要であることが説かれた。

北一輝(昭和):二二六事件の思想的指導者である北一輝の目指した国家は1.列強の中で強力な国家、2.経済的平等と社会主義、3.個人主義を基礎とした民主主義、天皇制民主主義である。マルクス流の国家を超えた社会主義ではなく、国家の枠組みを残した社会主義を目指した。そしてこれが天皇制と接合し日本型の統制資本主義・国家社会主義となる。

石橋湛山(昭和):戦前において、日本の国益に資する戦略として国際協調主義、小日本主義を唱えた。また社会主義に傾斜する時流の中で、自由な市場経済、資本主義、自由貿易体制、民主主義を支持し続けた。しかし戦後はケイジアンへ飛躍。