理想的な身体

イチローは俺にとって常にロールモデルとなってきたアスリートである(現在完了形・継続用法)。
35パーセントをヒットにするバットコントロール、筋骨隆々の選手に劣らない長打力、俊足が生む走塁力と広域の守備範囲(これをエリア51と云う)、キャッチャーミットまでライナーで返球する強肩、運動時に見られるしなやかな動き、180cm77kgのプロポーションと肉体美などスポーツ選手として理想的な諸々を持ち合わせたイチローが「プロフェッショナル 仕事の流儀」という番組で以下の発言をした。

僕の体って割と神経が行き届いた状態にあるので、頭でイメージしたことを表現しやすい体になっているんですよね。それがもう僕の大きな武器ですから。(プロフェッショナル 仕事の流儀 イチロー)

翻って俺は、大学入学時の53キロからバルクアップを目指し、自重トレーニングと少しのダンベルトレーニングと柔道の稽古とプロテインと食事で60キロまで自然に増量した。それ以上の増量は努力を要すると判断し、マシントレーニングの追加と食事量の更なる増加により64キロまで行くもそこから停滞、食事量を増やし続けなんとかそこも通過し、最近はピーク時69キロまで到達することができた。主に上半身の筋肉群の増強により単なる肥満体とは異なるバルクアップを部分的に成功させたと自分では評価している。一方で俺は体の表現力という点を危惧している。それは柔道の中で頻繁に感じる。払い腰や内股や体落としといった技の決定力は多少なりとも上がったが、一方で双手背負い、一本背負い、片襟背負い、逆一本背負いといった各種背負い投げの入りの完成度が低くなってきた。相手の懐に入ろうと判断してから入るまでのスピードが体感的に遅くなっているのだ。また同時に頭と体の感覚にズレが生じている。これらは表現力が確実に落ちている証左である。この深刻な問題を克服するため、適正体重に戻す以外の2点の方策を考えた。

一点目がスピードとパワーの両立。これがハナからできれば苦労しないのだが、ラグビー日本代表五郎丸歩選手が日本代表は走力を落とすことなくパワーを上げようと試みてると発言しているのを見てヒントを得た。柔道とラグビーでは性質が異なるが、ラグビーの場合は脚力を増強し走力を維持したのだろう。上半身を支え身体全体の安定感を維持するために下半身を強化するというのは自然な発想だ。となると増量・上半身の強化と同時並行・同程度にそれ以外の部位の強化が必要になる。

二点目が柔軟性。可動域を広げることでより身体の自由度が増すので動作のパフォーマンスを上げることができる。同時にケガも少なくなる。肢体が自由に動ける範囲を大きくすることで頭が作ったイメージと動作とのギャップが狭まり、イチローの言う「身体の表現力」の向上に近づくと思われる。

表現力が低下したという問題以外にも、腹斜筋に脂肪が溜まってきているというトレーニーとして許されざる問題も新たに発生している。これは道場にいる生意気盛りの糞餓鬼に指摘されて気付いた。俺の筋肉は大胸筋から腹直筋にかけては一応引き締まったと言える状態を維持しているのだが(故によく体重50kg台に思われる)、食事量の増加による増量によって腹斜筋辺りに余分な脂肪が少し出てしまっている。これについてはこの記事の論旨から外れるのでここまでにしておくがこれも看過できない深刻な問題だ。頭のてっぺんから足の裏に至るまで丸みのない鋭い角度を持った引き締まったような、一方でしなやかでバネのある動きができるような、荒々しさと柔かさを両立し頭で考えたことを体で表現できるような万能な身体を獲得するのに、貧相で弱弱しい現在から数えて何百年かかるか分からないが一歩でも近づくように前進あるのみだ。