「地獄変・偸盗」

地獄変・偸盗 (新潮文庫)

地獄変・偸盗 (新潮文庫)

9月30日読了。2013年63冊目。

地獄変と藪の中だけ。「地獄変」は間違いなく傑作。話の筋や構成に関しては素晴らしいにしても特に飛び抜けた感じはしなかったが、良秀の日常から車を焼くまでの描写やそこに用いられる語彙にセンスしか感じなかった。特に最後の方の文章の締め方。良秀という絵師は自分の求める芸術のために溺愛していた娘、ひいては自分の命まで犠牲にしてしまうが、そこまで賭してまで作品を完成させようとするのは、情報や複製の過多が進行する現代では絶対あり得ない芸術観であろう。

「藪の中」は傑作らしい。ある事件に対して証言者が様々な供述をしていて、その矛盾の中にその事件も藪の中に消えた、というような話だったが、どこをもって傑作とされるのか僕にはよく分からなかった。