「「少年A」14歳の肖像」

「少年A」14歳の肖像 (新潮文庫)

「少年A」14歳の肖像 (新潮文庫)

4月11日読了。2013年33冊目。

不謹慎な言い方かもしれないが、ある犯罪に対して即断罪し被害者を同情し加害者に怒り狂うような心理を僕は好きになれず(大抵の日本人は短絡的な勧善懲悪に走りやすいと僕は感じる)、むしろ被害者への同情と同程度に加害者側の心理やバックグラウンドにも目を向けられるべきであると思う。その点において、猟奇的な殺人鬼として日本を震撼させた酒鬼薔薇聖斗に焦点を絞って、なぜこのような事件を彼が起こしたのかを分析しようとしたこの本は僕の興味をひいた。

昨日、死刑囚・永山則夫のドキュメンタリー番組をネット上で見たが、彼は劣悪な成育環境から殺人に走ったと分析されており、因果関係はわりかし明瞭である。対して酒鬼薔薇事件は少年Aの成育環境は一見正常なものの性衝動・母胎の喪失など抽象的で分かりにくいものが要因として挙げられていて、因果関係の全貌が非常に見えづらい。確かに彼の生育環境にも幾らか欠陥が見られるが、この程度の欠陥が大事件に結び付けられるとは到底考えにくい。となるとサディズム的な性衝動が大きく絡んでくると思われる。また自分自身への嫌悪感も持っていたようで、いよいよ彼の精神構造は複雑な様相を呈してくる。正直この本だけでは理解には全く至ることができない。

宮部みゆきがあとがきにも書いてあるが、犯罪史に残る大事件は簡単に解ることができないし、同時に解られてはいけないと思う。酒鬼薔薇事件を少年Aだけに矮小化するのではなく、もう少し人間に普遍的な出来事として捉えたい。悪を対症療法的に排除しようとする社会こそがむしろ異常を呈していると思えてならない。