「カーブの向う・ユープケッチャ」

カーブの向う・ユープケッチャ (新潮文庫)

カーブの向う・ユープケッチャ (新潮文庫)

3月10日読了。2013年24冊目。
初期安部公房短編集。「チチンデラ ヤパナ」は「砂の女」の原型、「カーブの向う」は「燃え尽きた地図」の原型、「ユープケッチャ」は「方舟さくら丸」(未読)の原型。

全体的に構想段階のような作品が多い印象を受けたため安部公房の他の短編集よりは面白くなかった。「完全映画」のような実験的な手法が見られたため内容それ自体に他の作品より熱がこめられていない感が否定できない。

一番良かったのは「月に飛んだノミの話」。視点を思わぬところにおいて話を展開させていくという安部公房らしい作品だった。次点で「手段」。ガタついた父娘関係を修復しようと保険金詐欺に手を染めるが結局できそうにないみたいな内容で、プロットは平凡だが文章力がすさまじく、悲しい気分になる。孤独をより浮き彫りにする街でおなじみの渋谷で読んだので閉塞感がヤバかった。「耳の値段」に似ている。「ユープケッチャ」も良かった。閉ざされた生態系の中で生きる、その自己完結性が僕には魅力的。いや、ユープケッチャが一番面白かったかもしれない。