「怒る技術」

怒る技術 (角川文庫)

怒る技術 (角川文庫)

9月26日読了。夏休み43冊目。2012年73冊目。

これまで読んできた8冊の中島義道の著書の中では毒が少なく、普通のコミュニケーション本に寄せた感があり少し残念だった。

日本人には怒る能力が欠如している。人間関係において波風を立てず、怒りを我慢することで、怒りが自分に沈潜し腐敗していくことがある。そうした個々の具体的な腐敗した怒りは次第に対象を一般化した怒り(偏見等)に変わっていく。それは堅固で取り除くことは難しいし、予想しない場面で爆発させてしまうことがある。このような鮮度のない混合物で満たされた怒りが精神的な柔軟性を失わせることを防ぐために、日常生活で芽生えた怒りを大切に育て精緻に言語化し、その「怒り」を自由自在に表現する必要がある。しかし慎重に上手に怒りを表明して自分の怒りを正確に相手に伝達する、ということはもはや怒ってないことと同義である。つまり新鮮な怒りを加工して、意思疎通の手段として怒る技術は、紛れもなく「怒らない技術」なのである。

じつは私が提唱しているのは、怒らない技術なのです。ナマの怒りを生け捕りにし、たちまち調理し、怒りのすみずみまで包丁を入れること、怒りを自由自在に操作することであり、言いかえれば怒る「演技」を獲得することなのです。(P168)