「河童・或阿呆の一生」
- 作者: 芥川龍之介
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 1968/12/15
- メディア: 文庫
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9月24日読了。夏休み40冊目。
以前読んだ「蜘蛛の糸」に収録されれいる作品群とは作風を異とし、「河童」以外は、やたら自伝的というか自己を投影した短編が多かった。芥川は「ぼんやりした不安」のために薬物自殺を決行するが、「或阿呆の一生」「歯車」はそのような芥川が感ずる漠然とした不安や恐怖や緊張みたいな感情の脈動みたいなものを感じた。それ故に散文詩的で少し読み辛かった。
「河童」に関しては、河童の国のついて語りだす精神病患者における正気/狂気の境界線が問題になっているようである。僕にとってはどっちでもよかったが。患者の語る河童の国は人間の世界とはあらゆる点で価値観も生活も異なる。その異なる生活や価値観が土壌となって生まれる思想なり哲学は面白かった。以下は哲学者マッグが書いた「阿呆の言葉」からの引用。
阿呆はいつも彼以外のものを阿呆であると信じている。
最も賢い生活は一時代の習慣を軽蔑しながら、しかもその又習慣を少しも破らないように暮らすことである。
我々の生活に必要な思想は三千年前に尽きたかも知れない。我々は唯古い薪に新しい炎を加えるだけであろう。
矜誇、愛慾、疑惑―あらゆる罪は三千年来、この三者から発している。同時に又恐らくはあらゆる徳も。
物質的欲望を減ずることは必しも平和を齎さない。我々は平和を得る為には精神的欲望も減じなければならぬ。(太字は僕)
我々は人間よりも不幸である。人間は河童ほど進化していない。(P114-115)
5つ目がグッとくる。物質的欲望のみを減ずることを優先して、一方で精神的欲望には貪欲(豊かな生き方、絆、SNSなど)である現代の人間社会とは逆の動きである。