「芽むしり仔撃ち」

芽むしり仔撃ち (新潮文庫)

芽むしり仔撃ち (新潮文庫)

9月23日読了。夏休み39冊目。

大江健三郎の作品は初期までが秀逸らしいが、前回読んだ「死者の奢り・飼育」に続いて今回の「芽むしり仔撃ち」もかなり面白かった。次は積ん読している「性的人間」を読む。

大江健三郎自身が、少年期に経験した辛いことから甘美なことまでを詰め込んだ、自身にとって幸福な作品と評しているように、今でも好きな小説であるらしい。

戦時下、感化院(少年院みたいなもの)の少年たちが集団疎開により山奥の村に閉じ込められる。村での疫病の発生を契機に村人たちが近隣の村に避難したことで、感化院の少年たちが新たな村の住人として、束縛のない原始的な生活を営み始める。感化院の少年たちは、村に取り残された少女や朝鮮人、さらに脱走兵と親睦を深め、共助に基づく共同体を形成していく。しかしやがて村人が戻ってきて、感化院の少年たちは納屋に閉じ込められ、再び飢えや悪臭に苦しむなど非人間的な生活に戻される。村長は、少年たちの悪事(=村を荒らしたこと)を感化院の教官に通達しないことと食糧の供給と暴力行為の停止を条件に、村で疫病が流行ったり村人が避難したことを口封じさせようとする。僕はそのような恥辱をかたくなに拒否したが、僕以外の少年たちは、恐怖と解放感から村側に屈服する。失踪した弟、疫病で死んだ少女だけでなく、共に「自由の王国」を建国した仲間たちにも見捨てられ裏切られた「僕」は、あてもなく村から失踪する。