「レトリックと詭弁」

レトリックと詭弁 禁断の議論術講座 (ちくま文庫 こ 37-1)

レトリックと詭弁 禁断の議論術講座 (ちくま文庫 こ 37-1)

9月16日読了。夏休み32冊目。
面白かったので一気に読むことができた。

日常会話においても形式ばった討論においても、平叙文・断定という最低限の文体のみが用いられるのは稀なことで、それを基本形として、加えて修辞疑問や不当予断の問いや二者択一の疑問等々、様々なレトリックが運用され、我々のコミュニケーションに機微や駆け引きなどの彩りが加わる。

香西氏は本書の中で「問いを立てる」ことの意義についてページを多く割いている。「問いを立てる」ということは、相手に先んじてその回答の形式と中身を限定することを通して、議論の主導権を握ることに繋がる。夏目漱石から村上春樹の作品に至るまで様々な例示があるので、各項の主題が非常に分かりやすかった。


・相手が窮するような問いを敢えて立てる
→相手の沈黙が目的である。しかし相手が反駁してきたら、問いを立てた側が沈黙にならざるを得ないこともある。
→言質をとる。相手側から明白な言葉を受け取り、そこを基点に議論を展開する。

・不当予断の問い
→相手がYesNoで答える限り、問いの前提に了解を仕掛けることができる。

・選択肢の詐術
→問われる側の選択を限定し、問う側の都合の良い方へ自動的に方向づけられる。

・ディレンマの活用
→抜け道はあるが、現実的な場面においては或る程度有効な手段。

・論争の根拠
論証が無限に追求されることを防ぐため、論証を成り立たせるためには、論証の遡行をどこかで停止しなければならない。つまり自明のことをどこかで設定しなければならない。

・《tu quoque》(お前も同じじゃないか、みたいな意味)
→議論になっている事柄自体の免責はできないが、相手の立場と自分の立場が同じであることを表明して、問題の事柄への関与を相対化する。