「図書準備室」
- 作者: 田中慎弥
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2012/04/27
- メディア: 文庫
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8月13日読了。
・図書準備室
30歳を過ぎても働かず親の金で酒を飲む男が伯母にその理由を尋ねられる場面から始まり、伯母が姪に変わったこと以外何も場面が変わらず物語が終わる。つまり男の語りが物語の大部分を構成していることになる。30歳過ぎ・無職・男にきっちり当てはまる喋り方を書いた田中慎弥はさすがと言わざるをえない。エピソードの中に戦争という大きい悪と、私人間のそれも子供同士の悪という2つの悪が出てくるが、明らかに後者のインパクトの方が大きいしグロテスクであるしリアリティをもっている。前者に関して男の祖父は笑いながら男に語りかけているが、後者に関しては教師が陰鬱と男に語りかけているのが印象的。教師から挨拶をしないことを咎められることを回避するために教師に戦争の話を続けさせたのも、姪に話し続けたのも、結局逃げているだけ、男にとっては内容そのものより話し続けることが重要だと思わされた。しかし経験から言えることは「何で〜してるの」と聞かれても明確な答えなんて用意されていない、ということで、その点においてなんとなく男に共感できた気がする。
・冷たい水の羊
情景描写が多いので読み終えるのに時間がかかった。やや読みづらい。
一般に「いじめを受けている」とされている中学生の真夫が論理的に「自分はいじめを受けていない」と思いこんでいる。主人公は自殺や殺人などを試みるも実行に移せず、いちいち理由を後付けしていく。父や母、水原という同級の女子が日常生活の中で直線的に邁進するのと対照的に、真夫は妄想という非日常の中で愉悦に浸り現実逃避を繰り返す。
両方の作品でいじめの描写が出てくるが、性器を使ったいじめなので中々グロい。健全な感じの本ではない。