「財務省支配の裏側」

財務省支配の裏側 政官20年戦争と消費増税 (朝日新書)

財務省支配の裏側 政官20年戦争と消費増税 (朝日新書)

予算編成権を行使して絶大な権力をもつとされる財務省について。著者は旧労働省の元官僚である。戦後大蔵省〜野田政権下での勢力の伸長と背景に言及している。

行き過ぎた財務省中心史観を脱して、財務省に対して指導力を発揮する政治を期待したいが、その基盤は国民にある、という主張だった。

財務省の権力
財務省が他の省庁に比して権力がある所以は予算編成権の行使である。予算の取り決めで官邸を訪問する機会が多く政治家との接近しやすさも権力を増幅させている。

自民党時代における「グーチョキパー構造」と政官関係
政官財癒着の構造。自民党政権下で比較的経済の安定していた80年代までは政官の関係も良好であった。

業界は何よりも役所を恐れる。役所の規制のさじ加減一つで、業界の売上などが大きく左右されるからだ。そのため、業界は「役所を何とかしてくれ」と政治家に泣きつく。政治家はその見返りに業界から政治資金や票を得る。官僚は官僚で、業界の意向を受けた政治家に押し切られた振りをしながらも、ちゃっかりと業界に働きかけて「天下り先」確保する。(P46)

ところがバブル経済後は官僚の権威が失墜。90年代は行政改革や公務員改革等の厳しい改革案を通して自民党と官僚の関係も冷える。ここで政官は癒着関係から敵対関係に転化する。また2001年に設置された経済財政諮問会議財務省の力を減じた。

民主党政権で復活した財務省の勢力

脱官僚を掲げる民主党政権下で財務省の勢力は一時的に後退したが、結局自民党政権時代と同様のシステムが復活しつつある。というのも民主党は予算編成の経験がないため、財務省に依存せざるを得なかった。(P133)また民主党自民党のような優秀なブレーンを把握していなかったので専門的知識を有する官僚機構に依存せざるを得なかった。財務省は情報収集力・情報力・利害関係調整に優れ、政治領域でも中核的な役割、つまり政治インフラとして機能する。(p159)

・「財務省道義論」と「財務省暴走論」

財務省道義論」…市民革命を経験していない日本人にとって「お上の仕事」という意識が強いだけに財務省は身を正して公務に励むべき。

財務省暴走論」…道義論より罪はない。但し政策決定の基準が税や財政で判断されるのは危険である。

マスコミ等が声高に主張する「財務省支配論」に見られる財務省の情報操作や陰謀論は、問題の諸悪の根源を一元的に財務省に押し付ける思考停止の一種であり、事態はそれほど単純ではない。かといって日本経済の現状に関して財務省に責任がないわけではない。公務員は、ともすれば、「エリート」と「権限なき公務員」を都合よく与えられる。政治領域としての財務省も、日本の掲げる難問に身を挺して取りむくべきである。また政治家の側も、官僚を使いこなし、官僚に依存しないマネジメント戦略を実践するべきだ。

・今後の展望

左右を問わず、今後、日本政治で最も大きなトレンドとなるのはポピュリズムである。(P227)

今後10年間程度は右派革命、左派の地道な民主主義への取り組み、敵と味方を峻別して支持を得ようとするポピュリスト政治の三つが勃興するだろう。(P235)

財務省インフラ論は面白い概念だと思った。政権や首相の交代による政治的空白は財務省の台頭を許すが、一方でノウハウに通じる官僚を利用することで政治を運営する際の円滑性が増すという点は意外に盲点。