「無知の涙」

無知の涙 (河出文庫―BUNGEI Collection)

無知の涙 (河出文庫―BUNGEI Collection)

4月16日読了。2013年36冊目。
1968年に4件の射殺事件を起こし翌年逮捕され1997年に死刑執行された永山則夫の手記。小学校中学校にろくに通わず読み書きも困難な状態から投獄後1年ちょっとで現代の大学生を凌駕するほどの内容をノートに書きつけた。20歳〜21歳くらいに書かれたものなので僕の今の年齢と同じくらい。500ページ超のボリュームで且つ語彙も内容も難解なので読破には幾分骨が折れた。

まぁ書きたいことは沢山ありすぎて困る。
驚きを禁じ得なかったのは、この本の読了者で「反省しろ」だとか「被害者家族への云々」等の発言を依然している者が少なくないことである。永山自身も述べているように、もしそうでなかったら牛馬的人間で一生涯を終えたであろう無学の状態から猛勉強により自己を徹底的に見つめることができるにまで至った永山則夫は、この殺人事件と不可分である。永山を一旦そのような人間と規定して受け入れない限りこの本は一生読めないはずである。

内容はどのようになっているかというと、勉強を始めて日の浅い序盤は詩作が多く内容も私的である。そして中盤から共産主義やテロに言及し始めて、終盤に近付くと哲学や文学や芸術にも触れるようになる。内容は多岐にわたっているが、中でも全体を通して政治思想についての議論が随分と散見された。「実存主義」「社会主義」「革命」「牛馬的人間」「師マルクス」といった語彙が多く見られた。「貧乏」ということが最大のテーマらしい。

彼は自分の起こした殺人事件について理由ははっきりとは認められないとしているが、貧困と親への(社会への)憎悪が関連していると見る。貧困による犯罪の諸悪の根源は階級的な資本主義体制にあり、その体制を覆すためにテロリズムを肯定している。永山のマルクス主義的な政治思想(マルクスを師と仰いでいる)は論理的には受け入れられるし理解はできるが、それに賛成できるかというとやはり少し戸惑う。論理的には解るのだけれども。

それにしても久しぶりに左派の本を読んだ気がして少し疲れた。「貧乏」というのがテーマで、中流階級以上の人間に敵愾心を抱いている以上、この本の読者層はほぼ100%、彼の非難の対象になるので、煽り耐性のない人間は読まない方がよいと思われる。

等身大の自分に、実存に対して徹底的に向き合った点で、そこらのナルシシズム全開の小説(例えばN間失格みたいな)より遥かに読む価値があると思うので、僕はこの本を全力で薦めたいと思う。