「第四間氷期」

第四間氷期 (新潮文庫)

第四間氷期 (新潮文庫)

12月6日読了。2012年96冊目。

安部公房3連発。新潮文庫から出ている安部公房の作品16冊の中で未読のものは「方舟さくら丸」「他人の顔」の2冊だけとなった。なのでamazonで絶版となった作品を数点購入せねばならない。全集は1冊8000円程度するので少し敷居が高い。

この「第四間氷期」は、少女が溶けていったり足にカイワレ大根が生えてきたり天使の国に歴訪するような奇怪な他作品と異なり、現実チックである。また一昨日読了した「燃えつきた地図」ほど哲学的で観念的でない。話全体を鳥瞰したら「未来」をめぐる観念的な考察がなされているが難解というわけでないので、読みやすい作品だと思われる。


勝見博士は予言機械開発継続を政府に認めさせようとした。そこで予言機械である平均的な男を予言しようと追跡したが、その男は何者かによって殺された。この事件を機に博士は、脅迫の電話・胎児の盗難事件にも巻き込まれることになる。しかしこうした一連の事件は勝見博士自身の未来予測・意志を投影した予言機械が引き起こしたものであり、活気博士の取り巻き(頼木・和田など)は「第二の勝見博士」の協力者であった。予言機械の未来を受け入れようとしない勝見博士は予言機械(自身の未来予測)により殺されることになる。勝見博士は殺される前に大規模な地殻変動により水棲が陸棲を凌駕する未来を見る。

「そんな馬鹿げた未来を、未然に防止するためにこそ、予言機の利用価値もあるんだと、私は信じているな。」
「予言機は未来をつくるためのものではなく、現実を温存するためのものだと仰言るんですか?」(P253)

結局私どもの情緒などというものも、要するに外分泌腺の興奮と抑制…言葉をかえれば、陸に対する海の自己防衛の闘いにしかすぎず…(P300)

人類はついに自然を征服してしまった。ほとんどの自然物を、野生から人工的なものへと改良してしまった。つまり進化を、偶発的なものから、意識的なものに変える力を獲得したわけです。…略…次は人間自身が、野生から開放され、合理的に自己を改造すべきではないでしょうか?これで、闘いと進化の環が閉じる……もはや、奴隷としてではなく、主人としてふたたび故郷である海に帰って行く時がきた……(P306-307)

日常的連続感の奴隷であった勝見博士は「今とは断絶した未来」を肯定しようとしなかった点で死刑に処されたのかもしれない。

おそらく、残酷な未来、といものがあるのではない。未来は、それが未来だということで、すでに本来的に残酷なのである。その残酷さの責任は、未来にあるのではなく、むしろ断絶を肯んじようとしない現在の側にあるのだろう。(P331、あとがき)

人間の肉体が細菌にたいして抗体を作り、免疫の機能を獲得するように、人間の精神もまたそういう働きをもっているものである。(P341、解説)