「ドキュメント 高校中退」

ドキュメント高校中退―いま、貧困がうまれる場所 (ちくま新書)

ドキュメント高校中退―いま、貧困がうまれる場所 (ちくま新書)

高校中退=不真面目、安易な選択、経済的な貧困。こうした単層的な認識が一般的であるが事態はそこまでシンプルではない。高校中退は高校生活という層だけでは割り切れない問題である。そこには連鎖的な貧困が深く関与している。貧困と言ってもここでは経済的文化的に広い意味で使用される。

貧困で学力の低い子どもたちが、学校と家族によって拡大再生産されるという、まさに貧困の連鎖が起きている。しかもその家族の持つ文化は、子供たちの生き方や日常生活全体にまで影響を及ぼしている。(P216)

親世代が経済的文化的に貧困→子どもの教育機会や社会的生活能力の欠如→選択肢の制限→経済的文化的貧困。これが筆者の言うところの「貧困の拡大再生産」である。

さらに深刻だと思われるのは、規制緩和新自由主義からもたらされた中間層の解体及び格差の拡大、さらに財政的圧迫に危機感を持つ自治体の社会保障費用の削減である。授業減免率や高校中退率がますます増加し、それに比例して貧困層も拡大する。

この悪循環を断つためには地域内での連携は勿論のこと、高校の義務教育化、高校の職業教育重視、家庭への経済的援助の増加が早急に必要だと思われる。

高校中退の現状と原因究明、そして中退後の問題点や改善点の提案。そこから子どもの貧困の問題にまで話題はのぼった。筆者の提案は少し安易な印象を受けたが、多くの実例により筆者の言う高校中退の事態の深刻さはシリアスに受け止めることができた。